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岡山地方裁判所 昭和44年(わ)521号 判決

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

未決勾留日数中三〇日を右刑に算入する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、岡山大学法文学部の学生であるが、

第一、昭和四四年四月一二日早朝一部学生による校舎の封鎖などが行なわれる紛争中の岡山市津島所在同大学構内において、かねて同大学当局より告発のあった事件につき警察官による学内強制捜査が実施される旨を聞知し、かねがね大学当局に対し、警察に対して毅然たる態度をとるよう要求して来たにもかかわらず、学生を告発することにより警察官を学内に立ち入らせるような事態に至ったため、警察官の学内立入を阻止すべく封鎖中の建物に泊り込んでいた数一〇名の学生とともに同大学通称東門付近に赴き、同所南側を東西に通じる市道上にバリケードを構築してバリケード西側付近で待機中、同日午前五時三四分ごろ、右告発にかかる暴力行為等処罰ニ関スル法律違反被疑事件等につき、同大学学生に対する逮捕状ならびに大学構内の検証、捜索を許可する旨の令状を所持した警察部隊(総数三七八名)がバリケード東方に到着し、学内における検証、捜索を実施するためその立入の障害となる右バリケードをまず撤去するため、同日午前五時四二分ごろ、その一部部隊(約七〇名)がバリケードに向って市道上を西進し、一部部隊(約一五〇名)がバリケードを迂回して同道路南側の野球場内を西進して東門付近に接近しはじめるや、右バリケード西側付近に集合していた約五〇名の学生と投石により右警察部隊の学内立入を阻止しようと意思相通じ共謀のうえ、自己および右学生らにおいて、こもごも同所に準備されていたコンクリートの塊などを右警察部隊めがけて大量に投げつけ、更に右学生らにおいて、バリケードが突破されて東門内に逃げ込んだ後も、同門外に待機中の右警察部隊に同様のコンクリートの塊などを投げつける暴行を加え、よって右警察部隊所属の岡山県巡査有本宏(当二六年)外別紙一覧表記載の警察官五六名の職務の執行を妨害するとともに、右投石により右巡査有本宏に対し、右側頭骨陥没骨折等の傷害を与え、同日午後八時四〇分ごろ同市西中山下八九番地川崎病院において硬脳膜外出血により死亡するに至らしめたほか、別紙一覧表記載のとおり、右警察部隊所属の警部尾瀬満寿雄ら五六名の警察官に対し、全治約一四日ないし三日の各傷害を負わせ

第二、約二、〇〇〇名の学生らが、投石、殴打等により警察官らの阻止を排して内閣総理大臣官邸占拠などをしようと企て、昭和四四年四月二八日午後五時ころから同日午後六時一五分ころまでの間、東京都千代田区丸の内一丁目一番地国鉄東京駅第三ホームにその大多数がヘルメットをかぶり、タオルで覆面し、鉄パイプ、角材、丸棒、石塊等を携えて集結し、引きつづき同所から線路上を有楽町駅を経て同都港区新橋二丁目一七番国鉄新橋駅に至り、同駅ホーム付近に滞留して集合した際、右集団に加わり、もって他人の身体・財産に対し共同して害を加える目的で兇器の準備あることを知って集合し

第三、前記のとおり東京駅第三ホームに集結した多数の学生らと共謀のうえ、同日午後五時三六分ころ、同ホームから線路上に大挙して立入り、「官邸に突入するぞ」「新橋へ行くぞ」「安保粉砕」などと叫んで気勢をあげながら山手線、京浜東北線、東海道線の線路上を有楽町駅を経て前記新橋駅に至り、同駅ホーム付近に集合していた学生ら約三〇〇名とともに同日午後六時一五分ころまで同駅ホームおよび付近線路上に滞留して、東京駅、新橋駅間の右各線の電車・列車の運行が不可能となる状態に陥し入れ、そのため国鉄東京南鉄道管理局運転部司令係長橋本勝ら運転関係職員をして、このまま電車等を運行させれば事故の発生を免れないものとの念を抱かせ、よって右午後五時三六分ころから一時間余にわたり前記各駅を発着すべき電車・列車の運行を停止させ、もって威力を用いて日本国有鉄道の輸送業務を妨害し

たものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為のうち、警察官の職務執行を妨害した点は包括して刑法六〇条、九五条一項に、警察官有本宏を死亡するに至らしめた点は同法六〇条、二〇五条一項に、警察官五六名に傷を負わした点はいずれも同法六〇条、二〇四条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第二の所為は刑法二〇八条の二、一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第三の所為は刑法六〇条、二三四条、二三三条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するところ、判示第一の各警察官に対する傷害ないし傷害致死と警察官に対する公務執行妨害とは、一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により結局以上を一罪として最も重い警察官有本宏に対する傷害致死罪の刑で処断することとし、判示第二、第三の各罪については所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第一の傷害致死罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、同法二一条により未決勾留日数中三〇日を右刑に算入し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文により被告人の負担とする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西尾政継 裁判官 岡次郎 近藤正昭)

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